これも販促戦略?
  「無料日帰り旅行」の懸賞に当った。京都のある飲食店がWebサイトで「香港2泊3日または、日帰り旅行が当たる!」という開店記念キャンペーンをはっていて、応募してみたら2等の日帰り旅行に当選したのだ。今まで懸賞やクジの類いには一度も当たったことのない私は大喜び。
 しかし送られてきた旅行行程表を見ると・・・
なになに、まず朝7時30分に京都駅に集合。三方五湖レインボーライン→若狭(昼食は若狭御膳)、若狭・シーサイド・ブルワリー(地ビール工場見学)→ヤマトタカハシ昆布館の見学→おしゃれ工房で毛皮の生産工程を見学&ショッピング「所要時間90分」→午後7時30分京都駅着。
 朝早っ〜!・・・それにどう見てもこれは中年のおばさん向きツアー。毛皮のショッピングをさせようという意図も見え見え。同伴者は9,800円で参加できると書いてあるが、私の友人は誰も同伴しないだろう。悩んでいると家族は、タダなんでしょ、タダなら絶対行くべき、もったいない!と言うし、どういう人たちが旅行に参加しているのか(もしや老人会みたいなツアーだったりして・・)などという妙な興味に加え、若狭御膳と地ビールも捨てがたく、参加することにした。
 当日バスに乗ってみると全員が40代から50代の女性。私だけが一人で参加(私はどこにでもひとりで出かけるのは平気である)で、あとは皆無料ご招待客と同伴者だ。つまりご招待旅行用に組まれたツアーと判明。やはり普通のツアーにゲスト参加というわけではなかったのね。 三方五湖や若狭の地ビール工場はそれなりに観光客気分で見て回り、さて最後の「おしゃれ工房見学」はというと、これが強烈な体験だった。
 まず工房の所在地が岐阜というのに驚く。ギ・・ギフ??そんなところまで連れて来たのか。岐阜のG毛皮社は、3階建ての広大な工場で、会社に入ってすぐ私たちは殺風景な会議室のような部屋に通された。約40名ほどのバスツアーおばさんたちは、ぞろぞろと入ってパイプイスにすわる。前方にはホワイトボード。しばらくすると青い顔をした60歳くらいの男性が入ってきた。彼は毛皮の特性について話し始めたが、まず歩き方がおぼつかない。今にも倒れそうである。声は小さく、覇気がなく、超スローな話しぶり。毛皮を持つ手も微妙に震えている。どう見ても変だ。
「遠くからバスでこんなところまでやって来て毛皮の話なんか聞きたくないわな誰だって。そりゃそうや・・」毛皮をぴろ〜んと差し出して
「これはチンチラやで。もちろん生きてへんで、死んでるで。そりゃそうや・・」
といった調子で、何かというと「そりゃそうや・・」と小さな声でひとりごとを言ったあと、ふっ〜とため息をついて目をつむりしばし沈黙。このおっさんはやる気がないのか?
 おばさんたちの異常な緊張感。この人は病気ではないのか?体が病んでいるのに無理やり仕事をさせているのではないか、なんでこんな人を・・と皆固唾を飲んでじっと聞き続けていると、毛皮の保存の話あたりから
「毛皮は死んどるゆうてもビニール袋につめて密封したらいかんで。生き物と一緒やで。カビ、はえてまうで」という調子で、少し客も笑い始める。私たちは不思議な思いに駆られる。この男は一体なんだ?
 奇妙な話し方、病的な体の震え、しばしば客から笑いをとる話術。これは演技か?だとするとできすぎだ。吉本新喜劇も負けそうじゃないか。そんな思いを巡らせていると、この人は毛皮の加工の話から突然豹変した。
 声は大きく標準語となり、早口でまくしたてる、それはまさに立板に水。バナナを売る寅さんのごとき口上。さっきとは別人のように顔はきりり眼はランランと輝き、会場は爆笑につぐ爆笑!「○○なのでございます」という力強いフレーズ。
 もう唖然である。なんだ、バリバリの営業マンではないか。機関銃のような口上の最後に、
「長々とした話をご聴講いただき誠にありがとうございました」
おっさんが深く一礼すると、会場はやんやの拍手喝さい。なんという岐阜のエンターテインメント!
 部屋から出るといよいよ工房の見学だ。
 1階では数人の人が毛皮を切ったりミシンをかけたり加工している。廊下からちらりと隣の部屋を見るとここでも40〜50人のツアー客が説明を聞いているようだ。話をしている人はやっぱりさっきの男ような演技を身に付けているのだろうか?
 2階は毛皮製品の展示会場となっている。じゅうたん、コート、ジャンパー、バック、靴、帽子・・ありとあらゆる毛皮製品がある(5,000点あるのだそうだ)。試着をしてご自由にお買い物をしてくださいと言われても、数百万円とか数十万円だ、とても買えない。展示会場にはしっかり信販会社の人もすわっていて、ローンの用紙もセットされている。抜かりがない。買うつもりはないから、すぐに見てしまって大幅に時間が余ったのだが、外に出るにもドアにもそこここにG毛皮社の人が立っていて出られやしない、何やら軟禁状態。
 90分が経過して外へ出ると、驚いたことにこの会社の広い駐車場には何台もの観光バスが出入りし、おばさんの大群である。なるほどそうだったか!このツアーのメインはここだったのね。無料ご招待のバスが1台到着すれば、確実に何点かの商品は売れるだろう。旅行費用をG毛皮社が負担しても利益が上回るに違いない。そもそもこのツアーの企画自体、G毛皮社が販促の一環として行っていたのかもしれない。製造業の生き残りが厳しい中、これもひとつの戦略か。飲食店の懸賞がこういうところへ繋がっていたかと、感慨にふける私だった。
(2002.12.05)

ページを閉じる

HOME